つぶやき書評「21世紀の楕円幻想論」
85点。
不勉強で知らなかったが、著者は起業して、日米のVCから資金調達した経験がある方らしい。著者いわく「フルスロットルで走っていた」そうだ。
会社をたたみ、家を売り定期預金を解約して債務を返済し、肺がんで右肺の3分の1を失った今、違う景色を見てみたいと思ったそうである。
「意識して生活を変えたわけでもないのだが、金が無くなり、体力が無くなれば自然と生活も変化する。 で、どのように変化したのかといえば、一日の変化が少なくなるように、変化したのである。これを、流動性の喪失というらしい。 過剰流動性というバブルへの待望がわたしの内部ではじけたのかもしれない」
上記あたりは、年齢を重ね、少し現役から遠ざかった人や「ロハス」的な生活を送る人ならば言いそうなことでもある。
この著者がおもしろいのは、貨幣、負債、等価交換、そして、今後の社会のあり方について、自分なりに考えを深めていくところである。
「古代社会においては、人間が生きていくために必要なものは、基本的にただなんです。それらは、自然からの純粋な贈与だからです。人間同士もまた、助け合うことは自然であり、そこに貸し借りの関係を持ち込んではいけない。感謝して、大切にいただけばよい」
近代化以前は、上記の流れをくみ、”共同体モデル、相互扶助原理、縁という負債関係でつながっている社会”、近代化以後は”消費者モデル、等価交換原理、金銭的な負債関係を絶えず更新する社会”であると著者は言う。
網野善彦氏の「無縁、有縁」の概念も組み合わせている。前者が有縁、後者が無縁であるということだと理解した。有縁のほうが良さそうだが、例えば、田舎の、「誰もが誰もを知っている社会」は息苦しい。都会の無縁の方が自由である。でも、田舎から都会に出てきて無縁で自由に暮らすためには、経済的には自立していなくてはならず、大変だぞ、と。
「この自立と、相互扶助をいかにして組み合わせるのか、それこそが現実的な問題になるはずです。自立した人々が支え合うような社会を、どうやったら、イメージできるのでしょうか。 そのためには、『無縁』社会と『有縁』社会というものが、現実の社会の中で、どんな構造になっているのかについてもう一度、確認する必要があるだろうと思います」
そして、論理は展開していく。
「選べないものを選ぶよりは、逡巡せよ。 わたしは、そう思います。
『選べない』には、理由があるのです。
大切なことはその理由の中にあります。
選べない現実の前で、立ち止まり、戸惑うことの中から、思ってもいなかった風景が目の前に開けるということもある。
選べない理由の意味は、ためらい、逡巡しなければ、見えてこないのです」
”二つの焦点のあいだで自分を点検する”楕円幻想(by花田清輝)”が大切だとの結論になっていく。
私が間をずいぶん端折ったので、論理の飛躍が見られるようだが(実際に少し飛躍はあると思う、でもそれでも良いと思う)、全部読めばつながる。
私もまさしく、無縁と有縁の両取りができる世の中にすることは出来ないのだろうかと考えているので、とっても共感した本であった。
内容とは別に、2つほど、素敵な言葉が引用されていた。
「会社は世間からの預かりものだ」(著者の友人でもある経営者の言葉)
「ヒラカワ、お金は借りちゃダメなんだよ。お金というものは、もらうものなんだよ」(著者の友人の画家の言葉)
それから、VCについての記述も個人的には興味深かった。「自己責任」の概念にからめての箇所。2000年代前半の頃のことだろうから、今は違うと思うけど。
「もし、『自己責任』論が自分の信念ならば、たとえ一人になっても、どこまでも『自己責任』で、誰のせいにもしないで、やれよと言いたかったですよね。
「ベンチャー投資の現場において、日本の銀行やベンチャーキャピタルが、キャピタルゲインを狙って出資したわけだけれど、損失が出ると、経営者に責任を押し付けようとしたり、投資を経営者から回収しようとしたりすることがありました。
わたしは自分でもそのような追い込みを受けた経験があるのだけれど、『自己責任』の本場のアメリカのベンチャーキャピタルは、さすがに『自己責任』だからと、潔い撤退をしていたと思います。実際には、そうでもないのもありましたけれど、その場合でも最初の契約書には、投資リスクについての責任範囲が書かれていました。わたしに投資をしてくれた、アメリカ人の投資グループも、事業が立ち行かなくなったとき、ひとことも恩着せがましいことは言いませんでした。ただ、『長い間、ご苦労さん』と言ってくれましたよね」
「ファイナンス思考」のように誰にでもおススメというわけではないけれど、哲学が好きな人、色んな視点を持ちたい人には超おススメ。
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