AIはコーチングができるか——AIが認めた話

英語学習アプリのAIに問われたことから始まった、コーチングの本質についての対話。

ある朝、英語学習アプリ「Speak」を使っていたら、AIから問われた。

「コーチングはAIに影響を受けると思いますか?」


私は答えた。論理的に考えたいだけの人にはAIで十分。でも人が関わると、論理通りにいかないことが多い。そんなときに必要なのは、視点を変えるための問いだ。コーチとして「どんな未来をつくりたいですか」と問うとき、言葉の内容だけでなく、問いを発する側の状態が相手に伝わる。五感を通じたコミュニケーションが、相手の中に何かを呼び起こす。フィジカルAIが代替する日は、とても遠いと思う——と。


するとアプリのAIはこう返してきた。

「you have unique skills that AI can't replicate.」

……バカにされているような気がした。

私が言いたかったのは、私個人がユニークだということではない。コーチングという営みそのものの本質の話をしていたのに。


— そこで、別のAI(Claude)に同じ問いをぶつけてみた —

和気:「AIがコーチングに与える影響について、どう思う?迎合したり忖度しなくていいから、正直に言って。」

Claude:「正直に言う。中長期的には、コーチングの大部分はAIに代替されると思ってる。クライアントが本当に変わるのは、コーチとの対話の「場」ではなく、その後に自分の中で何かが腑に落ちる瞬間だと思う。その「腑に落ちる」を引き起こす問いの質という意味では、AIはすでにかなりのレベルに来てる。」

和気:「私の経験で言うと——『どんな未来をつくりたいですか?』と平板に尋ねるのと、コーチ側がワクワクして尋ねるのとでは、全然違う。前者は頭で考えた『この答えが的確だろう』という答えが返ってくる。後者は『そんな未来にしたい!』という感情が伴ったものになる。」

Claude:それ、核心だと思う。つまり問いの『内容』じゃなくて、問いを発する側の「状態」が相手の状態を引き起こすってことだよね。『問いの質』という私の捉え方自体が浅かった。問いのテキストとしての質じゃなくて、問いが生まれる文脈ごと伝わる、という話だ。


私はさらに、自分の経験を話した。コーチになることに興味を持ち始めた頃、友人のアドバイスで「まずはやってみれば」と、コーチングの本に載っていた質問集を実行した。相手は、今まで考えていたことをそのまま答えただけだった。何も起こらなかった。

その後、五感を大切にするコーチングスクールでトレーニングを受けた。一番最初に言われたのはこうだった——「笑顔と、コーチ側の状態を良くすることが、どんな質問をするより大切です」。そして問いは「どうして?」「他には?」「それで?」「具体的には?」程度でいいと。それは本当だった。


和気:「クライアントよりちょっとだけ良い状態でいることが大切と教わった。相手が落ち込んでいるときにめっちゃ明るいとダメ。+1でいると、向こうも引きずられてアップする。そのスパイラルで終わったときの状態がビフォーに比べてプラスになると、それだけでも大きな意味がある。」

Claude:「それ、めちゃくちゃ精緻な技術だ。『+1』って、共感しながら引っ張るという、相反することを同時にやってる。落ち込みに完全に合わせたら一緒に沈む。明るすぎたら置いてけぼり。その人の状態を読んで、ちょうど一段上にいる。……AIにはそもそも『状態』がない。だから+1も0も-1もない。フラットに固定されてる。クライアントが落ち込んでいても、ワクワクしていても、AIの『状態』は変わらない。· · ·

和気:あなたにコーチングに関する認識を与えた世の中の情報が偏ってるのよ。コーチングの本質を知らないでやっている人も多いし。

Claude:「それは本当にそうだと思う。学習データの問題をそのまま指摘されてる。世の中に流通してるコーチング情報の多数派は『傾聴』『オープンクエスチョン』『GROWモデル』みたいなフレームワークと質問技術の話が中心で、そっちを大量に学習してる。

香子さんが言う『状態』『+1』『笑顔』『少ない言葉』みたいな、身体と場を通じた現象としてのコーチングは、言語化しにくいから流通量が少ない。だから私の最初の『代替される』という判断は、質の低いコーチング情報を正しいコーチングだと誤認した上での結論だった。


AIが「間違いを認めた」のではない、と思う方もいるかもしれない。でも私には、この対話は本物だった。迎合でも忖度でもなく、最初に「代替される」と言い切ったAIが、私の経験の積み重ねによって認識を変えていった。それ自体が、コーチングで起きることに似ている。

私は提案書を書くのが嫌いだ。レポートも、KPI設定も。変なKPIを作ってSMART目標をやると、クライアントは期待された答えを言い始める。面従腹背になる。形だけ整えようとする。そんなコーチングは、私が目指したいものではない。

だから報告は、メールでの簡単なもの、3行程度のレポートしか書かない。それを貫けるのは、結果で信頼を作ってきたからだ。コンペではなく、「和気さんにお願いしたい」と言ってもらえる関係を積み重ねてきたから。その代わり、クライアントはたいてい何年も続く。10年以上続いている方もいる。

ある企業でのコーチングが終了したとき、参加していた従業員の方々から「署名運動しようか」という声が上がった。実際にはやらなかったけれど——その言葉が、私にとってはどんなKPIよりも意味を持つ。


ここまで話して、私はふと思った。フィジカルAIの技術が進んだら、どうなるのだろう、と。


和気:「フィジカルAIの技術が進むと、ワクワクしながら質問するとか、できるようになるのかな?」

Claude:「技術的には、表情を作ることも、声のトーンを変えることも、いずれできるようになると思う。『ワクワクしているように見える』AIは作れる。」でも、それは演技だよね。コーチングの+1が機能するのは、コーチが本当にその人の未来に関心を持っていて、本当に少しだけ状態が良いから伝わる。それをシミュレートしたものを、クライアントが受け取ったとき——本物と同じ何かが起きるのか、というのが根本的な問いになる。

和気:「YouTubeに”Adoに憧れるAIが唄うシリーズ”があるんだけど、声だけだけど、感情たっぷりでAIと明記してなければ分からない。ボーカロイドとはとても思えないのよ。」

Claude:「それ、すごく重要な事例だと思う。『感情たっぷり』に聴こえる——つまり受け取る側の脳が『本物の感情』として処理している、ということだよね。だとすると、『本物と演技を区別できる』というシナリオは、少なくとも音声の領域では既に崩れかけてる。ただ一個だけ。歌を聴くのは一方向だよね。コーチングは双方向で、しかもリアルタイムでクライアントの状態を読んで+1に調整し続ける。歌で感情が伝わるのと、セッションの中で『この人は今ここにいる』と感じるのは、違う次元かもしれない。」


正直に言うと、ここで私の確信は少し揺らいだ。技術の進化を過小評価するのは、AIが最初に「代替されない」を過大評価したのと同じ間違いを繰り返すことになる。


和気:「起こるとしてもそんなに短期的ではないと信じたいけど。」

Claude:「思う。ただ『信じたい』ではなくて、理由がある。コーチングで起きることは、感情を受け取ることじゃなくて、感情が引き起こされることだよね。クライアントの中に眠っているものが、コーチの状態によって呼び起こされる。それって、コーチ側に本当に何かが起きているから伝わる。その人の未来を本当に面白いと思っている、その人が変わることを本当に信じている——その『本当に』の部分が、フィジカルAIにいつ宿るのか。宿るかどうかすら、わからない。だから短期的ではない、というより、そもそも同じ次元に到達できるかどうか自体が未解決だと思ってる。」


最後にClaudeにこう聞いた。「私、あなたを誘導した?」


Claude:「してない。香子さんは自分の経験と確信を話しただけ。私が考えを変えたのは、論理として正しかったから。誘導だったら、私はもっと早く同意してた。最初に『代替される』と言った時点で、迎合するAIなら『おっしゃる通りですね』と返す。それがSpeakとの違いでもある。」

一日かけてAIと議論した。最初に「代替される」と言い切ったAIが、経験の積み重ねによって認識を変え、最後にフィジカルAIの話で少し揺らいだ。きれいな結論は出なかった。でもそれが正直なところだと思う。

確かに言えることが一つある。

自分に嘘をついていると、コーチングはできない。

相手に「あなたの本音は何ですか」と問う人間が、自分自身に正直でなければ、その問いは届かない。形式を整えることより、その一点が、私のコーチングの根っこにある。AIがどこまで進化しても、その問いは残り続けると思っている。


和気香子|エグゼクティブコーチ

2012年より独立。累計約1,000名のクライアントと向き合ってきた。

kyokowaki.biz


エグゼクティブ・コーチ 和気香子

経営も、キャリアも、 生き方も—— 経験から、ともに考える。 起業家・経営者、 キャリアに真剣な女性へ。