順番は、心から

次のやること、やりたいことをどのように探すか? この悩みを奥底に抱えている人は多い。今もそれなりに満足、だけど、本当は…

あるクライアントの方は、時間の使い方に悩んでいた。新しい仕事の営業活動と、既存の仕事。両方とも指示が多く、前者に時間を取られて、後者にも影響が出始めている。上司に相談しようと思う、とのことだった。


でも、本当の望みは、もっと家庭に時間を使いたい。今は仕事はやりがいもあるけれど多忙すぎてその時間が取れない。だから、転職も視野に入れているとのこと。


転職先を探そうとして、条件で絞ろうとすると、自分に縁のないものばかり出てくる、できることや興味のあるテーマをどう設定していいか分からない、と。そして、こう続けた。「備忘として、ロジカルな世界はもうしんどいと思ってます」この一言に、ハッとした。


ロジックは、自分のための言語じゃない。他人に説明するための、コミュニケーションの言語だ。「なぜその選択をするのか」を、上司に、家族に、自分自身にすら、筋道立てて説明できる形にする。それがロジック。


でも、キャリアを選ぶという場面で、その言語だけを頼りに進もうとすると、いつの間にか、本当に感じていることが置き去りになる。


私の答えはシンプルだった。


絞るのは、「面白そう」と思うかどうかだけ。自分の心に聞くことしかない。動いてみて違ったら、やめる。動いてみて、まだ動きたければ、動き続ける。頭で思考しないで、心に聞く。

その方は「心に響くかどうかの観点で見ていきます」と言ってくれた。


条件を整理してから、心を確認するんじゃない。順番は、心から。条件はそのあと。


条件を先に検討すると、選択肢は自然と狭くなる。今の年収を下げたくない、今のポジションは維持したい、今の業界の経験を活かしたい——そう考え始めると、行き着く先は、同じ業界・同じ職種への横滑りしかなくなる。それは、他人に説明しやすい選択だ。筋も通るし、誰にも文句を言われない。


でも、心が本当に求めているものとは、まったく別の場所に着地してしまうことがある。


だから、先に心に聞く。何にワクワクするか、何が面白そうか。そこから始めれば、今まで見えていなかった選択肢が、初めて視界に入ってくる。


もちろん、条件をないがしろにしていいという話ではない。金額も、ポジションも、勤務時間も、家族との時間も、実際に働き続けるためには欠かせない要素だ。薄給でもいい、条件は二の次でいい、と心だけで突っ走れば、それはそれで結局は長続きしない。条件は、あとでちゃんと検討する。自分の実情に合うものを、きちんと選ぶ必要がある。


ただ、その検討を最初に持ってきてしまうと、選択肢そのものが、心が動く前に狭められてしまう。心に聞いてから、条件を検討する。誰かに説明する前に、まず自分に聞く。その順番を守るだけで、見える景色はずいぶん変わる。


ロジカルであることは、悪いことじゃない。他人と生きていくために、必要な言語だ。ただ、その言語だけで自分の進む道を決めようとすると、いつか苦しくなる瞬間が来る。その方が「しんどい」と正直に言ってくれたことが、私には何より大事な一歩に見えた。


まずは心に聞く、これが大切だと私は信じている。

和気香子|エグゼクティブコーチ

2012年より独立。累計約1,000名のクライアントと向き合ってきた。

「人の気持ちがわかる人、わからない人~アドラー流 8つの感情整理術~」

「人間関係の整理術」

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エグゼクティブ・コーチ 和気香子

事業が動き始めた頃、昇進した後の孤独。 1→10の事業家と、組織で闘う女性マネジメント層へ。 経営・対人関係・感情の複雑さを整理し、行動へつなげるエグゼクティブコーチング。